広告代理店経由の受託開発、何がしんどいのか
受けなきゃよかった、と後悔した案件が何件かある。そのほとんどが広告代理店を挟んだ受託開発だった。「大手クライアントの仕事に関われる」という響きに最初は引かれていたけど、今は案件の構造を聞いた時点でかなり慎重に判断するようにしている。中抜き・スケジュール感覚のズレ・体育会系の空気、この3つが揃ったときのしんどさは直接取引とは別次元だと思う。
中抜きの構造と、実際の金額感
まず前提として、広告代理店経由の案件では「お金がどう流れるか」を把握しておく必要がある。典型的な構造はこんな感じだ。
エンドクライアント → 広告代理店 → 制作会社(ウェブ系)→ 自社(受託開発会社)
自分たちが経験した案件で、これが一番リアルに刺さった数字がある。自社が1000万円で見積もった案件が、上位の制作会社に渡った時点で3000万円に化けていた。さらにその上の広告代理店がエンドクライアントに請求した金額は5000万円だったと後から知った。エンドクライアントが5000万円を出して、実際に手元に来るのは1000万円。その比率は20%だ。
各層が普通に利益を乗せているだけで、誰が意地悪をしているわけでもない。広告代理店はクライアントとの折衝・企画立案を担い、中間の制作会社もPMを一人プロジェクトに張り付けている。それぞれが何かしら動いているのは事実だ。ただ、実装のほぼすべてを担う会社が全体の20%以下しか受け取れない構造は、それが「慣行」として成立していること自体がちょっと不思議ではある。
契約形態も確認が必要で、準委任契約であれば月額単価が明示されるから計算できる。ただ請負契約で「このシステム一式、○○万円でお願いします」という形で来る場合は、そもそも適正価格がいくらなのかが見えない。スコープが不明瞭なまま受けると、後から「やっぱりこの機能も追加で」という話が平気で出てくる。
スケジュールの感覚が根本的にズレている
「来週中に」が意味するもの
広告代理店の担当者と仕事をしていて一番つらいのは、スケジュール感覚の違いだと思う。広告業界はスピードを美徳とする文化があるらしくて、メッセージの返信は確かに早い。でも「仕様書を来週中に共有します」という約束が守られたことはほとんどない。
一方で「今週金曜日までに初稿を上げてほしい」という依頼は普通に来る。デザインカンプもない、コピーもない、要件も半分しか固まっていない状態で。自分が経験した中で一番しんどかったのは、金曜の午後3時に「月曜のプレゼン用にランディングページを作ってほしい」という連絡が来たことだ。何を入れるかの情報は「社内で確認してから共有します」と言われて、実際に来たのは土曜の夜10時過ぎだった。
エンジニアリングコストが計算に入っていない
根本的な問題は、広告代理店側に「コードを書く時間」しか見えていないことだと思う。要件のヒアリングに使う時間、仕様の確認と折り返しのやり取り、テスト、修正対応、デプロイ後の検証——こういった工程がすべてゼロコストとして扱われている感じがある。「ページを1枚作るだけでしょ」という感覚で依頼が来るのに、実際は認証が絡んでいたり、既存システムとの連携が必要だったりする。
これは担当者が悪意を持っているわけじゃなくて、単純にソフトウェア開発のことを知らないまま窓口をやっているケースが多い。「この機能はどれくらいかかりますか」と聞いてもらえるならまだいいほうで、工数の確認なしにスケジュールを決めてからこちらに伝えてくる、というパターンも普通にある。
体育会系の空気というか、「できない」が許されない感じ
体育会系という言葉を使う人が多いけど、自分が感じるのは少し違って「上位者の判断を技術的な理由で覆すことが許されない」という空気だと思っている。
広告代理店の担当者は、エンドクライアントから言われたことをそのまま伝達してくる役割を担っている。そこで「それは技術的に難しいです」「セキュリティ上のリスクがあります」と指摘すると、返ってくる言葉が「クライアントがそれでよいと言っているので」だったりする。技術的な問題を、クライアントの意向で上書きする。それが普通の意思決定フローとして機能している。
自分がある案件で、明らかに問題のある認証の実装を指摘したことがある。JWTのsecretをハードコードした状態でのデプロイを求められた場面だ。「本番環境でそれをやると後々大きな問題になる」と説明したら、「クライアントのスケジュール優先で、後から直してもらえれば」と言われた。「後から直す」案件がその後どうなったかは想像の通りだ。
技術判断をエンジニアに委ねてもらえない案件は、作り手としてもリスクが高い。何か起きたときに「言われた通り作っただけ」では済まないことも多いし、そもそも自分の名前がコードに残るのに、納得できない実装をするのはしんどい。
直接取引との差と、自分なりの判断基準
直接クライアントと契約する場合、中間マージンは発生しない。同じ1000万円の案件なら、1000万円がそのまま売上になる。それ以上に大きいのは、要件の解像度と意思決定の速さだと思う。「なぜこの機能が必要か」を直接聞けるし、技術的な判断について相談できる相手がいる。
一方で、直接取引には別のコストが伴う。営業・提案・見積もり・契約書の交渉・入金管理、これを全部自社でやることになる。「案件が降ってくる」という意味での楽さは、代理店経由の仕事にはある。
今の判断基準は2つ:中間マージンの層が何段あるか把握できること、技術的な判断を尊重してもらえる可能性があるか。この2点が怪しい案件は、たとえ単価が魅力的でも断るようにした。そうすると受ける案件は減るけど、一件一件の密度と実入りは上がった気がしている。
まとめ
- 広告代理店経由の受託は2〜3層の中抜き構造になることが多く、エンドクライアントが出した予算の20%以下しか手元に来ないケースもある(そして最上位がいくら積んでいるかは分からない)
- スケジュールの感覚のズレは構造的なもので、エンジニアリングコストの見積もりを理解できる人間が中間にいないことが原因だと思う
- 「できない」「リスクがある」という技術的な主張が通らない文化は、作り手としてのリスクにもつながる
- 直接取引には営業コストが伴うが、中間マージンと技術的な裁量の面では明確に違う